ウクライナの最前線では、ドネツク州のバフムートが最激戦地となっており、数カ月にわたって激しい戦闘が繰り広げられているようです。ロシアの「Republic」誌では、ドンバスに渡り一連のレポートを執筆したドミトリー・ドゥルネフ氏の興味深いインタビューを掲載していました。ドゥルネフ氏はロシア語誌の「Спектр」に執筆しているジャーナリストです。インタビューはファリダ・クルバンガリエヴァ氏が、ロシア人の動員兵が投入されている最前線の状況について同氏に質問したものですが、バフムート周辺での戦闘だけではなく、ウクライナでの戦争全般について示唆的な内容となっています。以下は、同記事から一部を抜粋したものです。
— 動員兵や囚人兵は戦況に大きな影響を及ぼしていますか？
— ロシア軍は場当たり的な突撃を敢行しています。それらは刑務所から集められた数百のワグネル兵士の死体です。彼らは放り込まれ、死体となり、また次の一団が放り込まれます。彼らの行動は原始的であり、彼らには極めて単純な命令が与えられます。文字通り、前進する先の地点を示され、そこに前進しなければならず、実際に前進します。殲滅される部隊もあれば、到達して足がかりを築く部隊もあります。これで、ロシア軍はいくつかの通りの占拠に成功していますが、動員された兵士の死体は幾重にも重なっており、このような戦術が有効なのかどうか分かりません。
違う言い方をすれば、これはヴェルダンを彷彿とさせるような戦いです。ただ、ヴェルダンでは双方に夥しい損失が出ていたのに対して、ここではロシア軍の損失がウクライナ軍の数倍に上っています。これも、ロシア軍のいわゆる「損失に無感覚な部隊」を前進させる戦術によるものです。
— 彼らは本当に「地雷の餌」や「大砲の餌」として使われているのですか？
— 彼らは「肉」として使われていますが、地雷源に進むのではなく、大砲の砲火の中を進みます。そして、誰も彼らを訓練していないことは明白です。市街戦では、壁沿いに少数のグループで移動するのが鉄則です。しかし、彼らは通りの真ん中を大人数で進み、爆発音がするとひざまづいて撃つべき相手を探します。一カ所に集まったところに砲弾が飛来し、死体となります。そして、次の部隊が、撃たれないことを祈りながら前進してくるというわけです。
私は、コードネーム「カムチャツカ」のボリス・ペレフ（原注：ウクライナ軍の兵士）と話しましたが、彼はこれらのロシア兵士が自分を守る術を学んでいないことに対して純粋に驚いていました。前線に出されて、前方で爆発音があれば、それは死が近いことを意味します。携帯を持っていれば、ジオロケーションを開いて、前方の爆発まで何キロくらいあるか推定できます。誰かの手や足や内臓が転がっていれば、すべてが進んではならないということを示しています。それなのに彼らは進み、道の真ん中を前進し、そして砲弾に倒れます。また、これは、孤立化・原子化や共感の欠如などの、ロシア社会のまったく驚くべき現実でもあります。
ここでは、誰もがプーチンとロシアに驚かされました。私は、ロシアで動員が可能であるとは考えていなかったため、戦争があると思ったことはありませんでした。そして、原則として、総動員がなければ、ロシアはウクライナとの戦争でいかなる成功を得ることも不可能です。このことは、ドンバスでの戦争に精通している者であれば誰でも明確に理解していることでした。しかし、どうやら、プーチンは成功を疑っていなかったようです。
私は友人の社会学者とも議論したことがあります。彼らによると、ロシアは依然として欧州の国であり、国内の大半の地域で女性の生む男子は一人です。一人息子と一人娘、それだけなのです。そして攻撃的な国内の状況と、テレビで流されている内容のおかげで、彼女たちは非常に不安な状態にあります。彼女たちは戦争を感じています。社会学者たちは、徴兵や動員はロシア人に容認されず、自殺行為だ、と言っていました。もちろん、それは自殺です。しかし、即死というわけではありません。数十万の人々が徴兵され、連れ去られ、そしてその大半の人々が不平も言わずに死んでいくのです。
— 動員が抗議活動の引き金にならなかったということで、ロシア社会に対する見解は変わりましたか？
— 私は以前から、ДНР（ドネツク人民共和国）がロシアの未来であると言ってきました。これは、ロシア社会全体のやり方が試されてきた地域なのです。そしてそこでは、７年間にわたって、自由で活発で、ウクライナ人でなくても、単に経済的に自由で、独裁を受け入れない者の全てが締めつけられてきたのです。立ち上がることのできる者は去り、残った者は炭鉱の仕事から、大量に動員されていったのです。
動員兵は訓練されず、士気が低く、部隊が彼らによって強化されることはない、ということは誰もが分かっていました。彼らから別の連隊が編成され、人数が充足され、マリウポリ近郊に投入されました。そして、3月から4月にかけて、彼らは正に文句も言わずに死んでいったのです。どれだけの葬式があったことか（原注：これは、ДНРとЛНРからの動員兵の話である）。これは、ロシアの統治の下で生きることに同意した者には何でもできる、ということを示しています。それにも限度があると考えています。しかし、それはまだ分かりません。
— ISWのアナリストは、戦闘準備が最も整った精鋭部隊がドネツク方面に移動したため、ヘルソン撤退以後にドネツクでのロシアの攻勢が激化したと述べています。ドネツク方面でロシアの精鋭部隊の存在は感じられますか？
— いいえ、もうロシアには精鋭部隊は存在しません。ロシア軍全体が巨大なフェイクです。ロシアが持っている最高の部隊は空挺部隊であり、軽装備で降下し、重装備の主力部隊の到着を待つはずなのですが、本来の目的には全く使用されていません。
装備は従来の歩兵戦闘車よりもはるかに高価な自慢のBMP-3であり、これは100mm砲と30mm砲を対で備えています。しかし、装甲は「紙」、つまりアルミ製であることが分かっています。このアルミ装甲の内側に積み上げられた100mm砲弾の上に、乗員と兵士が座っているわけです。したがって、何かに被弾すれば、車体全体が激しく爆発することになります。
こうなっているのは、パラシュートで降下するため、軽量でなくてはならないからです。この戦争でパラシュート部隊の話を聞いたことがありますか？そんな話はありません。誰もそんなことは計画しておらず、想像すらしていません。ロシアの降下兵はヘリでホストメリに飛来しましたが、装甲車の降下は計画されていませんでした。空輸された装甲車はありましたが、ほとんどがベラルーシからIL-76で運ばれたものでした。
精鋭部隊は侵攻後の最初の数カ月で大幅に損耗しました。この精鋭が今どうなっているのか、過去数カ月にどんな人員が補充されたのか分かりません。もちろん、今やロシア軍も戦いの中で一定の経験を得ています。しかし、それは第2次大戦時代の経験なのです。彼らは破壊されることを恐れて戦車を利用せず、大量の大砲で目の前にあるもの全てを焦土と化しています。そして、歩兵を大量に投入し、ロシア軍がいかなる損失も気にしないことを誇示しています。しかし、ロシア軍は戦場で勝つことはできません。彼らの全目的はウクライナを消耗させ、プーチンに勝利を報告できるように、ウクライナが少なくとも何かを差し出すように合意させることにあります。
— ロシアがバフムートを奪取する可能性をどう見ますか？
— ご存じの通り、ウクライナ軍は概ね欧州的な規準で考え、行動しています。旅団の1つや2つを犠牲にできるような聖地はありません。ですから、バフムートがスターリングラードのようなものであり、そのために皆が死ぬというようなことはあり得ません。そこで死ぬことになるのはロシア軍です。今までのところロシア軍の損失はウクライナ軍の損失を大幅に上回っています。退却してから、攻囲する必要があれば、ウクライナ軍は退却して、攻囲するでしょう。この戦争にかかっているものはバフムートではないからです。かかっているものは、プーチンが、そして彼の命令で新しいロシアの歴史教科書を書く人々が否定しようとしている、ウクライナの独立とウクライナ人の存在自体です。これが、この戦争で重要なことなのです。
ウクライナ側から見た戦況、と見る方も多いかもしれませんが、ドミトリー・ドゥルネフ氏は生まれも育ちの生粋のドンバス人です。ドネツク医科大学卒で医師をしている間に書き始めてジャーナリストになってしまったという、ドンバスらしく変わったキャリアの持ち主のようです。親露派のMK-Donbassの編集長も7年くらいしておられたようですが、2015年に辞められており、おそらくは「立ちあがることができ、去った」ドンバス人の一人が見た戦争と言った方がよいかもしれません。
他のメディアでも「肉挽器」と呼ばれているバフムート周辺の戦いですが、何年も現地を見ているジャーナリストの記述でも、露軍の前時代的な戦いぶりが目をひきます。百万歩譲って、これで何らかの「勝利」を収めることがあったとしても、ロシアの将来は暗いとしか思えません。残念ですが。