マキシム・ミロノフ先とオレグ・イツホーキ先生が、動員がロシア社会に及ぼす影響について簡単なコメントを書いておられたので、簡単に紹介します。お二方ともロシアの出身ですが、ミロノフ先生はアルゼンチン在住でIEビジネススクールの教授、イツホーキ先生は米国在住でUCLAの教授をされています。
動員開始直後、ということで、とり急いで取りまとめられたものですが、かなり気の滅入る分析となっています。
要約
1. 今後6カ月の間に70万人から100万人の動員が試みられる。
2. 当初の動員の対象集団は200〜300万人と推定される。したがって、この集団に属する人が徴兵される確率は25%を超える。
3 徴集兵の最初の6カ月間の予想死傷率を60~70%と推定する(死者が15〜20%、負傷者が45〜50%)。
4. ウクライナ戦がロシア国民に与える人口動態的な打撃は、COVIDパンデミックによる打撃の数倍に及ぶ。
5. 2波からなる犯罪の急増を想定する。第一波は、戦争からの帰還兵、第二波は、親を持たずに育つ孤児たちによる犯罪である。
6. 個人のレベルでは徴兵の妨害、あらゆる方法での兵役回避が最適な戦略であり、これによって若年層の徴兵の大幅な拡大が困難になる。しかし、この戦略では、作戦の最初の数カ月間の徴兵の数は大きく変わらないため、それに伴う人命の損失は避けられない。
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1. 戦争開始時、ロシア軍の総勢は20万人と推定されていた。当局は、春頃から、死傷者の代わりを補充するため、短期契約で兵役に就く市民を積極的に採用した。新規に採用された契約軍人の数、LNR/DPRに動員された人数に関しては、信頼できる数字はない。6月に、英国情報部はロシア軍の損害を2万と推定した。9月末には、この数字は3万5,000~4万人規模になると想定できる。死者と負傷者の比率を1対3とすると、9月末のロシア軍の総損失は15万人規模になる。この間、少なくとも脱落者と同数の兵士が投入されたと仮定すると、15万人の兵士が追加されたことになる。当初の部隊の生存者で健全な兵士も、休養がなくては戦えないため、近いうちに入れ替えが必要である。
この35万人の入れ替えとして、何人の兵士の徴兵が必要であろうか。戦争当初に派遣されていなのは、主に職業的専門家の契約兵をウクライナに派遣していた。その後は、軍務の意欲のある人たちの契約採用となった。今回の動員は、兵役を望まない非専門家の徴兵を意味し、その効率は専門家の軍隊の数分の一となる。したがって、元の部隊の損失を補うためには、その2〜3倍、つまり70万〜100万人を徴兵しなければならない。
実際に大統領令の第7パラグラフの「秘密」の部分に、どのような数字が記されていたのか、ソーシャルメディア上でも多くの議論が交わされている。これらの議論には意味がないと考える。当局は必要な人数だけ動員するだろう。当局は、大統領令の数字を、いつでも、どのようにでも変更可能である。大統領令の形式的な数字ではなく、必要性から出発すべきである。これらから、われわれは公式に発表された30万人を大幅に上回る動員の必要があると推定する。
2. 動員は主に20〜30代の若年層を対象に行われると考える。それ以上の層は、まず健康上の問題があり、第二に、子供がいて社会とのつながりが強い。これらの層を徴兵した場合の潜在的コストは、若者の場合を大幅に上回る。
1990年代から2000年代初頭にかけての人口構成上の「穴」により、現在ロシアでは20〜29歳の男性人口は730万人に過ぎない。動員は、兵役経験者が対象となる可能性が高い。近年では、年間約25万人が徴兵されている。その一部が兵役に残り、一部が様々な理由で不適格になると考えると、各年度において20万人、すなわち20歳から29歳の男性の約200万人の徴兵候補者のプールが存在すると想定できる。対象の年齢を35歳まで上げると、約300万人のプールとなる。
70万人から100万人の動員を想定すると、この対象となる基準を満たした者が6カ月以内に徴兵される確率は25%以上となる。
この確率は、地域によって均等ではない。貧しい地域や遠隔地では多数が、豊かな都市では抗議活動を避けるため少数が徴兵される。動員が始まって数日後には、当局が正にこの戦術に従っていることがわかる。したがって、貧しい地域では対象者以外の者も高い可能性で徴兵されることになる。
3. 新たに動員された人々の予想される死傷率は、主に、貧弱な身体的訓練、動機づけの弱さ、極端に短い訓練時間のために通常の兵士を上回ると見られる。軍隊の訓練には、時間と資源が必要である。ロシア当局には現在、動員された者を訓練する将校も、機材も、時間も十分にはない。動員された人々は、2~3カ月の訓練の後(おそらくは2~3数週間後)、基本的に「大砲の餌」として前線に送られることになる。英国情報機関の推定では、6月(開戦から3カ月半)時点で、当初の兵力の55%が残存していた。今後6カ月の間に、ロシアの新規動員兵力の損失は60〜70%に達する可能性がある(15〜20%が死亡、45〜50%が負傷)。
4 ロシアのCOVIDによる超過死亡者数は100万人であった。しかし、COVIDの打撃を受けたのは、すでに出産・子育てが一段落した60歳以上の人たちが中心だった。ウクライナでの戦争では、1年間で約50万人の死傷者(そのうちのかなりの比率が障がい者となる)が出ることになるだろう。これらの人々は最も生産性の高い年齢層であり、仕事も社会生活もすべてこれからという層である。この死傷者は、この層の男性全体の大きい比率を占める。ロシアには現在、20歳から34歳までの男性が1,300万人いる。兵役だけではなく、この年齢層の数十万人が移住を決意する(あるいはすでに決意している)可能性もある。ロシアは20〜29歳の男性の10%以上を失う可能性がある。
5. 戦争から帰ってきた人たちは、さまざまな心の問題、つまり軍隊でのPTSDを抱えている。過去数十年のロシアでは、これは「アフガン症候群」や「チェチェン症候群」であった。ウクライナでの損失の規模は、すでにアフガン戦争やチェチェン戦争を上回っている。戦争が終わった後、ロシアは犯罪の急増に直面する。また、特に貧しい地域では相当数の子供が父親不在となり、その子供たちがティーンエイジャーになる5~10年後には新たな犯罪の波が押し寄せるだろう。
6. ロシアの独立系の人権活動家、ジャーナリスト、政治家は、海外脱出から徴兵委員会の出頭要求の不履行に至るまで、あらゆる手段で徴兵を妨害することを提案している。確かに、これはプーチン政権がウクライナに仕掛けた犯罪的な戦争での、一段の犠牲を回避するための最小限の抵抗戦略である。また、この戦略は国家執行機構の資源を消尽させ、中期的に徴兵の大幅な拡大を困難にする。しかし、残念ながら、この戦略では、動員開始から数カ月間の徴兵数が大きく変化することはない。徴兵される可能性がかなり高いことから、情報力に優れた裕福な若者が兵役を回避し、その代わりに恵まれない同世代の若者が犠牲になるだけである。つまり、この戦略では、ウクライナ戦争に何十万人もの徴兵を送りこむことに伴う、大量の無意味な人命喪失を回避することはできない。したがって、現在、ロシアの市民社会が直面しているのは、動員と戦争に対する大規模な抗議行動か、あるいは何万人もの若者の命の損失か、という二者択一である。
注記:ご本人たち曰く、
1. われわれ軍事に関してはトーシロで(2年間の軍隊学科での訓練と1カ月の軍事訓練しか経験がない)、あくまで経済学者としてのコメントなんで、そこんとこ注意してください
2. ロシア軍の人数、損失、動員計画などの数字は公表されていないので、最良と思われる推定値を使ってます、ということです。
なんという・・・
独ソ戦時のソ連は軍民合わせて2000万人は死んだと言われてる。
今のロシアの人口はソ連に比べて3分の二、20歳から39歳では4分の一ほどだから
単純で4年で500万人死ねば独ソ戦と同等の規模の被害ということになる
でも当時と違いロシアは少子化による人口減少フェーズに既に入っているし、海外への人口流失、そして制裁も相当長く続き、解除されても外資の流入にも年月がかかることを考えると、国力の衰退はそら恐ろしいものになる
そもそもプーチンが望めば4年どころかアフガンのように10年続くこともありうるし、兵士は子作りできないから人口動態に与える打撃は計り知れない。クレムリンが一蓮托生になってしまった以上指導者を変えて戦争を継続することすらあり得る。
そしておそらくロシア人はそんな苦しみを味わえばより西側を憎むのは間違いないだろう。
ロシアには長い暗黒の時代が待っている。本当に酷い戦争だ。